中央銀行はなぜ金を買い続けるのか — インフレヘッジではなく制裁ヘッジだ
中央銀行はなぜ金を買い続けるのか — インフレヘッジではなく制裁ヘッジだ
中央銀行が金を買い続ける本当の理由
世界各国の中央銀行が年間およそ1,000トンの金を買っている。近代統計が始まって以来見たことのないペースだ。ポーランド、カザフスタン、ウズベキスタン、中国、インド、トルコ — リストを見ればパターンが浮かぶ。これはインフレ・ヘッジではない。制裁ヘッジだ。
全てが変わった瞬間
2022年、ロシアの外貨準備のうち約3,000億ドルが西側銀行システムの中で凍結された。電話一本で。その瞬間、世界中の中央銀行が同じ計算をした。「西側銀行にドルやユーロで準備を置く限り、政治的判断ひとつで資産は消える」。
これは推測ではない。明確な因果の連鎖だ。ロシア凍結の前と後の金購入曲線を重ねれば、同じグラフのふりはできない。
誰が買っているのか
リストを見れば、どの国が地政学リスクをどう価格付けしているかが見える。
- 中国:18ヶ月連続の買い増し。準備に占める金の比率を着実に引き上げている。
- ポーランド:欧州で最も積極的な買い手の一つ。ウクライナの隣という地理を思い出せば理解できる。
- インド:英国に保管していた金100トン超を国内に送還した。シグナルは意図的だ。
- 新興国クラスター:カザフスタン、ウズベキスタン、トルコ、ハンガリー、エジプト — 同じ方向に動いている。
だから金は走った
ここ数年の金ラリーは、教科書的なインフレヘッジでは説明しきれない。インフレは2022〜2023年にピークを打ち、その後落ち着いた。それでも金はおよそ60%上昇した。ヘッジ対象が冷えているのにヘッジが高くなる — これは標準理論では説明が難しい。
説明できる変数は別にある。中央銀行需要+ドル決済への信頼低下+地政学の分断化。この三つが同時に動いていて、それが価格に反映されている。
売り手もいる。トルコはイランショック後に一部を売却した。湾岸諸国の一部はホルムズ海峡の混乱による短期流動性ストレスの中で金を整理していると報じられている。ただ、これらのフローはマクロを反転させるには小さすぎる。
私の読み方
中央銀行は市場より遅い。保守的で、合意ベースの委員会で決める。そういう組織が一斉に同じ資産に集まるとき、それは資産が安いからではない。他のすべての選択肢がより危険に見えるからだ。
これは「金が短期で暴騰する」というトレードシグナルではない。「通貨システムそのものに対する信頼関数が再評価されている」という構造シグナルだ。この二つを分けて読まないと、ボラティリティに振り回される。
私が見ているリスクは二つ。一つは、行きすぎた動きに対する短期調整の可能性。もう一つは、政策変更で中央銀行買いが減速する可能性。どちらも現実的だが、どちらも5年スパンのアークを覆すものではないと考えている。
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