アリババ116ドル、私の最悪シナリオでも150ドル — 強気・弱気の論拠と8つの柱をすべて開く
アリババ116ドル、私の最悪シナリオでも150ドル — 強気・弱気の論拠と8つの柱をすべて開く
TL;DR 私の前提では、アリババの本質価値は保守的150ドル、中立290ドル、楽観545ドル。株価は116ドルで、最も悲観的なシナリオよりも下にあります。強気の論拠はAI・クラウド需要とPBR1.7倍、弱気の論拠は未解決の法的リスク、エヌビディア製先端チップへのアクセス制限、そして積極的な設備投資です。
なぜこの銘柄を選んだのか
私のウォッチリストで期待リターン15%超は10銘柄あり、アリババは20%で中ほどに位置します。ただ、この銘柄を解剖する理由は順位ではありません。
アリババは強気と弱気の論拠が異例なほど拮抗している銘柄だからです。一方は中国AIインフラの中軸だと言い、他方は規制と地政学リスクの塊だと言う。こういう銘柄ほど、まず数字を見て、物語は後から当てはめるべきです。
強気の論拠、3つ
第一に、AIの話には実体があります。 アリババは自社の大規模言語モデルを構築してきました。中国国内のアップル製デバイス向けAIバックボーンを担うパートナーシップも確保しています。さらにクラウド事業では、演算能力を求める企業需要が急増しています。重要なのは、この3つが別々ではなく同じエンジンに接続されている点です。
第二に、バリュエーションが明確に安い。 PBRは1.7倍前後。比較可能なテック企業は4.5〜7倍で取引されています。主要アナリストの目標株価の大半は現在値を大きく上回ります。市場がこの会社の現在進行形の事業に値付けをしていない、ということです。
第三に、リスクは実際に低下しています。 米司法省との6億ドル規模の和解が成立しました。何年も株価の上に垂れ込めていた法的な暗雲がひとつ消えました。すでに安い株で法的・規制リスクが晴れ始めるとき、状況は面白くなります。
弱気の論拠、3つ
買う前に反対側の話を聞かないなら、それは分析ではなく応援です。
第一に、法的問題は終わっていません。 アリババのAIデータ取り扱いをめぐり、集団訴訟の可能性を調査している法律事務所があります。EUは制裁金の可能性を検討中です。司法省との和解でひとつ片付いても、ペンタゴンのブラックリストと米中対立は依然として生きています。
第二に、AIハードウェアの問題です。 中国はエヌビディアの先端チップに限定的にしかアクセスできない可能性があります。これが致命的な理由は、AIモデルを拡張するのに必要な演算能力を確保できなければ、いま説明した成長エンジンそのものが減速するからです。加えて、社内で従業員が使えるAIツールを制限しているという点も、良い兆候とは言えません。
第三に、お金です。 アリババはこの瞬間もクラウドとAIインフラに積極的に支出しています。売上がその支出を正当化するほど速く伸びなければ、利益率は押し潰されます。ゴールドマン・サックスはすでにこの銘柄への確信度を一段下げました。スマートマネーが慎重になっているサインです。
数字を開く
時価総額2,800億ドル、企業価値3,440億ドル。差額の640億ドルが純有利子負債です。小さくない金額です。
設備投資の話が財務諸表に現れるのがここです。昨年のフリーキャッシュフローはマイナスに転じました。ただ、そのマイナスの年を含めても5年平均フリーキャッシュフローは127.5億ドルあります。そして純利益は156.5億ドルと、自らの5年平均を上回りました。
ですから私は、大型設備投資サイクルにある他の大手テック企業と同じ扱いをします。フリーキャッシュフローではなく純利益を軸に見る。キャッシュフローの毀損は、建設フェーズに伴う短期的な現象である可能性が高いからです。
利益率は再び上向き始めています。10年平均の純利益率は14%、5年平均は9.6%。順序に注目してください。5年平均が10年平均を下回るということは、直近5年がこの会社の低迷期だったという意味です。かつては20%近い純利益率を出していた会社です。
ここで計算が面白くなります。利益率が過去の水準へ戻って利益が2倍になれば、現在のPER18倍は9倍になります。株価が1ドルも動かなくても、です。
資本利益率はひどい。ここは擁護しません。営業利益が圧迫されたことで大きく傷んでいます。
一方で売上成長は、市場が想像する死にゆく会社のそれではありません。直近3年で年5.6%、5年で7.4%、10年で26%。そして重要なのは、買収がほぼないことです。買って接ぎ木した成長ではなく、有機的な成長です。
最後に、売上総利益率40%の会社がPSR1.85倍で取引されています。利益率40%のテック企業に自動車メーカー並みの倍率が付いている状態です。
8つの柱:チェック5、バツ3
美しくもなく、ひどくもない成績表です。バツは純利益の減少、フリーキャッシュフローの減少、低い資本利益率から来ています。
ただ、私が本当に良いと思った点がひとつあります。自社株買いのタイミングです。
この会社は高値で自社株を買っていません。株価が大きく下げた後に買い始めました。多くの企業はまったく逆をやります。現金が潤沢な好況の高値で買い、株価が暴落した局面では現金を温存する。下落局面で買うのは、経営陣が本気で自社株が安いと信じているときの行動です。これは会計上の数字ではなく、経営陣の資本配分の判断を示す証拠です。
アナリスト予想と私の前提
アナリストは今後4年で1株当たり利益が2倍以上になると見ています。これは純利益率が5年前の水準に戻るだけで自然に出てくる数字です。売上成長率の予想は3%、10%、12%、12%、5.5%、11%、12%と続き、今後7年で売上を1,500億ドルから3,120億ドルへ、年率約10%の経路です。
私が入力した前提はこうです。
| 項目 | 保守的 | 中立 | 楽観 |
|---|---|---|---|
| 売上成長率(年) | 6% | 10% | 14% |
| 純利益率 | 13% | 16% | 19% |
| 10年後のPER/株価FCF倍率 | 14倍 | 18倍 | 22倍 |
| 本質価値算出の割引率 | 9% | 9% | 9% |
| 1株当たり価値 | 150ドル | 290ドル | 545ドル |
2点補足します。
第一に、私の楽観シナリオの純利益率19%ですら、この会社が5年前に実際に出していた水準を下回っています。過去のピーク実績を最良シナリオには使っていません。
第二に、出口倍率18倍は行き過ぎだとは思いません。長期の市場平均倍率は15〜16倍です。世界で最も成長の速い経済圏の最大企業なら、多少のプレミアムは正当だと考えます。資本利益率が低いのは事実ですが、AI事業が軌道に乗れば回復余地があると織り込みました。
そして割引率9%は私の要求リターンではなく、本質価値を求めるための数字です。この会社がいくらの価値かを問う計算であって、私がいくらで買うべきかを問う計算ではありません。より大きな安全マージンが欲しければ、自分の要求リターンを入れる必要があります。
この計算が間違い得る箇所
結論の前に、自分のモデルの弱い環を自分で指摘しておきます。
割引率9%は中国リスクに見合うのか。 米国企業に使うのと同じ割引率を、政治・規制条件が構造的に異なる市場の企業にそのまま当てました。ここにリスクプレミアムを上乗せすべきだという反論は妥当です。割引率を11%に上げるだけで、中立ケースの価値は目に見えて下がります。
利益率回復の前提は規制以前の世界を想定している。 この会社が20%近い利益率を出していた時期は、プラットフォーム規制が本格化する前です。あの利益率構造が戻る保証はありません。だから13〜19%のレンジを使ったのですが、下限の13%ですら楽観である可能性は残ります。
出口倍率18倍は中国資産へのディスカウントを無視している。 ここ数年、中国大型テックはファンダメンタルズとほぼ無関係に構造的なディスカウントを受けてきました。それが10年後に消えているという想定は、計算ではなく賭けです。
それでもこの銘柄を最上位層に置く理由は一点だけです。3つの反論をすべて認めても、保守シナリオの150ドルが現在値116ドルを上回っているからです。安全マージンとは、まさにこの状態を指します。自分の論理が複数箇所で外れても、まだ損にならない価格です。
関連して、アリババのAI・クラウド事業の構造と逆張りバリュー株としての捉え方も合わせて読むと理解が深まります。
最後にもう一度。ここに書いたどの数字も買い推奨ではありません。これは私の前提であり、皆さんが同意する義理はありません。むしろ同意できない入力を見つけて自分の数字に差し替えること、それがこの計算の目的です。
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