「10倍株」の罠に落ちないで — Adobeが示すバリュー投資の正道
「10倍株」の罠に落ちないで — Adobeが示すバリュー投資の正道
TL;DR 「10倍株」を約束するネット記事は後を絶たないが、2021年に推奨されたハーツは80%以上下落、ロケットフューエルブロックチェーンは99%以上下落して実質消滅した。一方、Adobeは「衰退企業」と言われながら年間100億ドル近いフリーキャッシュフローを生み出し、現在の株価は推定適正価値の下限付近にある。価格と価値の乖離を見極めるプロセスこそが、投資と投機を分ける。
「10倍株」記事の末路
2021年11月、ある記事がネットに掲載された。タイトルは「来年10倍になる株5選」。副題にはこう書かれていた。「この記事は素早く金持ちになることについてだ。」
最初に推奨された銘柄はハーツ(Hertz)。当時の株価は約30ドル。破産から再上場した直後の勢いを根拠に、買いを推奨していた。5年後の現在、ハーツの株価は約4ドル。80%以上の下落だ。
2番目の推奨銘柄、ロケットフューエルブロックチェーン(RKFL)はさらに悲惨だ。当時1株58セントだった株価は現在0セント。99%以上の下落。「ワンクリック暗号資産決済で市場全体を変革する」という主張は、会社自体の消滅で終わった。
なぜ繰り返されるのか
インターネットでは誰でも株が上がると言える。問題は、その主張の裏に分析があるかどうかだ。
ハーツの場合、キャッシュフローも利益率も負債水準も検討されていなかった。「以前30ドルだった。今も30ドル。だから上がる」という論理。これは投資ではなく投機だ。
60〜70年前、株式の平均保有期間は数年だった。今は数日だ。「素早く金持ちになる」思考が蔓延しているが、この思考の致命的な欠陥は、困難な時期が来たとき — そして必ず来る — 耐え続けることができない点にある。
転換点:Adobeという異質な機会
10倍のリターンを約束するためではなく、価格と価値の乖離を見つけるプロセスを示すために、一つの銘柄を取り上げたい。
Adobe。史上最高値700ドル。わずか4年4ヶ月前のことだ。現在の株価は270ドル。最近は244ドルまで下落した。市場のナラティブは「衰退する企業」。
しかし数字は違う物語を語っている:
- 直近5年平均フリーキャッシュフロー:78億ドル
- 昨年のフリーキャッシュフロー:約100億ドル(過去最高水準)
- 営業利益率:10年平均28.6%、昨年30%
- 売上総利益率:90%
「衰退」とは成長率の鈍化を意味しているのかもしれない。売上成長率が10%から6〜7%へ徐々に低下しているのは事実だ。しかし、売上総利益率90%の企業で成長が鈍化するということは、依然として莫大なキャッシュフローを生み出しながら、成長速度だけが落ちているということだ。
ハーツやロケットフューエルにはこうした基盤自体が存在しなかった。
価値と価格の乖離を測る
会社全体を1ドルで買えるなら当然買う。100兆ドルなら買わない。その間のどこかに、良い投資となる価格が存在する。その価格を見つけるのが投資家の仕事だ。
| 前提条件 | 保守的 | 中間 | 楽観的 |
|---|---|---|---|
| 売上成長率(年間) | 5% | 8% | 11% |
| FCFマージン | 37% | 40% | 43% |
| 10年後FCF倍率 | 16倍 | 19倍 | 22倍 |
| 算出価値 | 230ドル | 334ドル | 488ドル |
現在の株価270ドルは、この範囲の下限に近い。
一つの銘柄で正解か不正解かは重要ではない。こうした分析を30〜40社に適用し、価格対価値が魅力的な銘柄でポートフォリオを構成すれば、長期的に良い結果を出す確率は高まる。
投資家か、投機家か
最も冷静な投資家は、自分が何を保有しているか理解している人だ。上下する株価を買っているのではない。ストーリーを買っているのではない。キャッシュフローを生み出すビジネスの一部を買っている。
「次の10倍株を見つける」と「価値より安い価格の企業を見つける」の違い。前者は80〜99%の損失で終わることが多く、後者は時間を味方につける。
この区別が、長期リターンを決定する。どんな銘柄選択よりも。
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