UAEが米国債市場を揺るがす:ペトロドル体制崩壊の序章
UAEが米国債市場を揺るがす:ペトロドル体制崩壊の序章
なぜ世界最富裕国がドルの「救命綱」を求めたのか
外貨準備高2,700億ドル、政府系ファンド規模は数兆ドル。世界有数の裕福な国であるUAE(アラブ首長国連邦)が、米財務長官スコット・ベッセントとの会談で事実上の最後通告を突きつけた。「ドルの流動性を確保してくれなければ、原油を中国人民元で決済する。」
ワシントンは譲歩した。そしてこの一件が、今後12〜18ヶ月の世界市場を揺るがす連鎖反応の起点となりつつある。
ホルムズ海峡封鎖がもたらしたドル枯渇
2月末に米国・イラン間の軍事衝突が本格化して以降、ホルムズ海峡は事実上閉鎖された。3,000発以上のミサイルとドローンがこの狭い水路を攻撃し、湾岸産油国の原油輸出はほぼゼロにまで落ち込んだ。
象徴的なのはクウェートだ。月間原油輸出量がゼロ — 1991年のサダム・フセイン侵攻以来、初めての事態だ。
しかし問題は産油国だけではない。日本、インド、韓国、タイ、トルコといった原油輸入国も、原油代金をドルで支払う必要がある。世界中でドル需要が急増しているのに供給が追いつかない。これがグローバルな「ドル・スクイーズ(ドル枯渇)」を引き起こしている。
1974年の合意 — 52年後の綻び
1974年、サウジアラビアが原油をドル建てでのみ取引すると合意した。これが「ペトロドル体制」の始まりだ。世界中のすべての原油がドルで価格付けされるため、各国はドルを保有せざるを得ない。この構造が米国に巨額の財政赤字を可能にする「超能力」を与えてきた。
私がこの問題を重視するのは、同盟国の一角が「人民元で決済する」と言及した瞬間、セーターのほつれた糸を引っ張るのと同じ状況が始まったからだ。一度ほつれれば、全体が解れる。
米財務省が公式に認めたところによれば、湾岸とアジアの「複数の」同盟国が同様のドル流動性支援を要請している。一国の問題ではない。構造的な転換だ。
データが語る現実
具体的な数字を見てみよう。
- ニューヨーク連銀に保管されている外国中央銀行のドル保有額:2012年以来の最低水準
- 中国の米国債保有量:2008年以来の最低(18年ぶりの低水準)
- 日本:30日間で470億ドル相当の米国債を売却
- 世界全体:過去30日間で約2,400億ドルの米国債が売却
買い手は?実質的に英国のみだ。
さらに注目すべき変化がある。世界の中央銀行の準備資産に占める金の比率が、米国債の比率を上回った。35年以上ぶりのことだ。しかも直近の四半期は、史上最大規模の中央銀行による金購入が記録されている。
通貨を管理する立場の人々が、「もう紙の通貨はいらない、金が欲しい」と行動で示している。
信用危機という名の転換点
私の分析では、これは2008年型の金融危機ではない。銀行危機でもなければ、流動性危機でもない。**信用危機(トラスト・クライシス)**だ。
2008年は中央銀行が紙幣を増刷して解決した。しかし信用危機は印刷機では解決できない。世界が「ドルを本当に信じ続けるべきか?」と問い始めたとき、その答えはさらなる紙幣増刷では変わらない。
ドル指数は2025年末から約8%下落した。ゴールドマン・サックスとJPモルガンは、さらに約10%の下落を予想している。世界のドル準備比率は30年来の最低水準に沈み、ドル需要は構造的に縮小する見通しだ。
イラン紛争が終結して原油が再び流れ始めれば、ドルは回復すると考える人もいるかもしれない。しかし逆説的に、通常の原油流通が戻れば湾岸諸国の緊急ドル需要がなくなり、ドルを支えていた一因が消える。ドルはむしろ加速的に下落する可能性が高い。
今後12〜18ヶ月、この構造的な信用低下が株式市場と債券市場を支配すると私は見ている。そして大半の投資家はまだこの変化を織り込んでいない。それこそが最大のリスクであり、同時に最大の機会でもある。
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