ペイパルの適正株価はいくらか:フリーキャッシュフローで計算する6ステップ
ペイパルの適正株価はいくらか:フリーキャッシュフローで計算する6ステップ
私の前提では、ペイパルの10年視点の適正株価は保守シナリオで70〜75ドル、中間シナリオで106〜124ドル、楽観シナリオで160〜200ドルです。中間シナリオが実現すれば、現在株価からの年率リターンは約21.5%になります。だからこそ私は60.50ドルの買収提案を安すぎると考えています。
この数字をそのまま信じてくださいという話ではありません。重要なのは結果ではなく、そこに至る過程です。同じ過程をご自身の前提で回せば別の数字が出ますし、その数字のほうがあなたにとって有効です。ですので計算過程をすべて段階ごとに公開します。
ステップ1:株価ではなく時価総額から見る
第一の原則はこれです。会社の値段は株価ではなく時価総額です。
株価は時価総額を発行済株式数で割った値にすぎません。60.50ドルという数字自体には情報がありません。「530億ドルでこの事業全体を買うか」と問い直して初めて判断が可能になります。
この転換をした瞬間、次の問いが自然に続きます。530億ドルを払って毎年いくら返ってくるのか。
ステップ2:純利益ではなくフリーキャッシュフローを基準にする
ペイパルのフリーキャッシュフローは前年55億ドル、直近5年平均で52億ドル前後です。
ここで私が評価しているのは、フリーキャッシュフローが純利益を上回っている点です。会計上の利益より実際に手元に入る現金のほうが多いという意味で、こうした会社は利益基準だけで見ると実態より割高に見えがちです。
現在のバリュエーションはフリーキャッシュフロー倍率で9.3倍。これは買収報道で15%上げた後の数字です。発表前は8倍を下回っていました。利益基準では約10倍です。
ステップ3:売上成長率の前提 — 3%、6%、9%
まず過去の実績を確認します。直近3年は年6.3%、5年は8%、10年は13%成長しました。成長率は明確に鈍化傾向です。
アナリストのコンセンサスは、今後7年で売上が350億ドルから560億ドルへ増えると見ています。華やかではありませんが中位から高位の一桁です。一株当たり利益は今期5.40ドルから9.17ドルまで伸びる想定になっています。
私は10年間について3%、6%、9%を低位・中位・高位の前提としました。過去のトレンドより保守的で、アナリスト予想が中間値近辺に来る範囲です。
ステップ4:フリーキャッシュフロー・マージンの前提 — 14%、17%、20%
この会社は過去10年、フリーキャッシュフロー・マージンが年19%程度でした。ただし傾向は低下中です。
そこで14%、17%、20%を置きました。過去平均を上限近くに置き、低下傾向が続く場合を下限とした構造です。参考までに純利益率は10年14.17%、5年13.5%、直近1年15%です。フリーキャッシュフロー・マージンが純利益率を上回るため、こちらを基準にするほうが正確です。
ステップ5:10年後の倍率 — 14倍、16倍、18倍
最も主観的で、結果への影響が最も大きい項目です。
長期で見た市場平均の倍率は15〜16倍前後です。良い会社にはそれより高く、悪い会社には低く付ける必要があります。
ペイパルはその中間のどこかです。資本利益率が高く、しかも改善しているように見える点はプレミアムの根拠になります。しかし決済は競争が極めて激しい領域で、この会社が大きなプレミアムを受ける資格を証明したとは私はまだ考えていません。
そこで14倍、16倍、18倍としました。市場平均より低い範囲です。ここを甘く置くと結果全体が膨らむため、この項目だけは意図的に辛口にしています。
ステップ6:要求リターン — なぜ9%か
最後の入力値は、自分が要求する年率リターンです。
私は9%を入れました。理由は明確です。ここでは安全余裕を乗せず、バリーが言った意味そのままの内在価値、つまりこの事業がおおよそいくらの価値かを求めているからです。
要求リターンを上げれば買える価格は下がります。実際、私が個人的に求める15%を入れると中間シナリオは70〜80ドル台まで下がります。これは会社の価値が変わったのではなく、その価値をいくらで買いたいかが変わっただけです。この二つを混同するとバリュエーション全体が意味を失います。
結果とその読み方
10年分析で回した結果がこちらです。
| シナリオ | 売上成長 | FCFマージン | 終了倍率 | 適正株価 |
|---|---|---|---|---|
| 保守 | 3% | 14% | 14倍 | 70〜75ドル |
| 中間 | 6% | 17% | 16倍 | 106〜124ドル |
| 楽観 | 9% | 20% | 18倍 | 160〜200ドル |
ここで二つの点が目に留まります。
第一に、最も保守的なシナリオの適正価格ですら70ドル台です。買収提案価格の60.50ドルより高い。売上が年3%しか伸びず、マージンが下がり続け、市場がこの会社に平均以下の倍率を付け続ける世界でも、60.50ドルは安いということです。
第二に、中間シナリオが実現すれば今後10年の年率リターンは約21.5%になります。ここが私が買収提案を拒む論理の核心です。今売って確保する1年分の20%と、10年間年21.5%で複利が回ることのどちらを選ぶかという問題であり、生み出される総額は比較になりません。
バリーの75〜115ドルというレンジがどこから出たのかも理解できます。私の保守から中間のレンジとほぼ重なります。異なる人が異なる道具で計算して近い範囲に着地したなら、その範囲にはもう少し信頼を置いてよいはずです。
この過程で最も多い失敗
私の見るところ、人が崩れる地点は計算ではありません。
投資で失敗する多くの人は、情報が足りないから失敗するのではありません。情報はすでに溢れています。市場が予測不能に感じられ、あらゆる判断が誤りに見えるとき、動けなくなることが失敗の原因です。その硬直が不安であり、不安は悪いトレードよりはるかに高い代償を払わせます。
この計算の本当の効用は、正解を得ることではありません。払う価格をあらかじめ決めておくことです。価格が決まっていれば、株価が揺れるたびに判断をやり直す必要がありません。すでに冷静に下した決定を実行するだけです。
最後に一つ。私はペイパルの株主です。しかし、私が持っているから、あるいはバリーが持っているからという理由で銘柄を買ってはいけません。上のプロセスをご自身の前提で回し、ご自身の数字を作ること。それがこの記事の目的です。
買う価格をあらかじめ確定させる実践的な方法はペイパルのキャッシュ・セキュアード・プット戦略に、安全余裕の概念自体は変動相場における価格対価値と安全余裕にまとめています。
FAQ
Q: 倍率の前提(14/16/18倍)をなぜ市場平均より低く置いたのですか。 A: 決済業界の競争強度のためです。資本利益率の高さはプレミアムの根拠になりますが、アップルペイ、ストライプ、ショッピファイが同時に圧力をかける構図で、市場が再びプレミアム倍率を付けると仮定するのは楽観的です。辛口の前提でも結論が維持されるかのほうが重要で、今回は維持されました。
Q: 要求リターンは9%と15%のどちらを使うべきですか。 A: 問いが違います。9%は「この事業の価値はおおよそいくらか」を問う値、15%は「自分はいくらで買いたいか」を問う値です。内在価値を把握するときは低い値を、実際の買値を決めるときは自分の状況に合わせた高い値を使うのが順序として正しいです。
Q: 一株当たり利益予想(5.40ドル→9.17ドル)をなぜ直接使わないのですか。 A: アナリスト予想は前提を点検する参照線としてのみ使います。計算の軸は売上成長率とフリーキャッシュフロー・マージンです。この二つを自分で仮定してこそ、どの変数が結果を動かしているかを自分で管理できます。
Q: 買収提案が破談になると、この計算は無意味になりますか。 A: むしろ逆です。この計算は買収提案とは無関係に成立します。ディールが壊れれば株価は戻るでしょうが、事業の現金創出力は変わりません。そのときこそ、上の表の価格帯と市場価格を改めて比較すべき局面です。
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