テスラは依然として自動車会社 — 403ドルで-8%が出る理由
テスラは依然として自動車会社 — 403ドルで-8%が出る理由
テスラは自動車会社なのか、AI/ロボティクス/FSD会社なのか?売上の90%以上が車から来ている現実を認めると、403ドルは正当化が難しい価格になる。
まず事実から
ナラティブを取り除いてテスラの売上構成を見るとこうなる。
- 車両販売:売上の90%以上
- エネルギー/太陽光:1桁台後半
- サービス/その他:1桁台前半
- FSDライセンシング / ロボタクシー / Optimus:実質ゼロ
これが「今日の」テスラだ。「未来の」テスラは全く違うかもしれない。FSDが汎化し、ロボタクシー網が立ち上がり、Optimusが量産されれば、売上構成が一変する可能性はある。しかし投資家が買っているのは可能性ではなく、今日の事業 + 将来キャッシュフローの現在価値だ。純粋なオプション性に無限倍率をつけるのはバリュエーションではなく賭けだ。
DCFが示すもの
私の10年前提はこうだ。
- 売上成長率:6% / 9% / 12%(保守 / 中位 / 楽観)
- 営業&FCFマージン:8% / 11% / 14%
- 10年後PER:18 / 20 / 22
- 割引率:9%
これらの多くはテスラが持続的に達成したことのない数字だ。10年平均で売上成長12%は自動車業界平均をはるかに超える。マージン14%は自動車業界でも最高水準。出口PER22は市場平均(15〜17)より高い。
この寛大な前提でも結果はこうだ。
- 低位ケース フェアバリュー:47ドル
- 高位ケース フェアバリュー:150ドル
- 中位ケース フェアバリュー:88ドル
- 403ドル時点で中位シナリオ年率-8%
ポイントは、私が「まだ収益を生んでいない部門」 — FSD、ロボティクス、エネルギー — にも実質的な価値を計上している点。それでもマイナスだ。
自動車事業の本質
自動車は難しい事業だ。構造的にこうなっている。
- 資本集約的:工場・治具・在庫に巨額の資本が縛られる
- シクリカル:需要が景気と連動し、価格決定力が弱い
- 低マージン:伝統的OEMは営業利益率5〜8%
- 競争過密:既存OEM + 中国EVメーカー + 新規参入
テスラは一時期この全てを破る会社のように見えた。マージンは20%台に乗り、価格決定力が実在し、ブランドプレミアムが見えた。しかし直近サイクルでそれは正常化した。値下げ → マージン圧縮 → 競合追随でEV全体のマージンが押し下げられた。
私自身プラグインハイブリッドに乗っている。正直に言うと純EVよりこちらの方が好きだ。航続不安なし、充電の段取りなし、効率も良い。これが中央値の消費者の選好なら、「EV一直線市場」という前提は思ったより脆い。
物語と数字の差
市場で最も危険なパターンの一つは、良い物語にいくらでも価格を譲ること。最近、知人が「That's a great story, take my money」と言った。それが何を意味するかというと、価格に無関心な買いだ。それは投資ではなく賭けだ。
株式市場の歴史には「素晴らしい会社でも価格が暴騰しすぎると10年塩漬け」の例が山ほどある。
- 2000年マイクロソフト:事業は成長し続けたが株価は約13年横ばい
- 2000年シスコ:25年経った今もドットコム高値を回復できていない
- 1972年ニフティ・フィフティ:コカ・コーラですら高値後10年マイナスリターン
事業が壊れたからではなく、価格が価値を大きく追い越したからだ。
FSDとロボタクシーは?
強気派は「FSDライセンシングとロボタクシーが始まればバリュエーションは完全に書き換わる」と主張する。その可能性を否定しているわけではない。ただ、いくつかは指摘しておく必要がある。
- FSDは約束された期限を一度も守ったことがない。毎年「来年」になる
- Waymoはすでに商用ロボタクシーを運行している — 競争は存在する
- 規制承認は都市別・国別で時間がかかる
- ロボタクシーが成功しても、自動運転は資本効率の良い事業とは限らない — 減価償却、保険、整備が積み上がる
FSDが失敗すると言っているのではない。テスラの株価はFSD成功をほぼ100%の確率ですでに織り込んでいると言っている。それが少しでも外れれば、88ドルすら高く見える可能性がある。
どうするか
シンプルだ。
- 403ドルでは買わない — DCFがマイナスの銘柄はパスがデフォルト
- ショートも勧めない — ナラティブ駆動の銘柄は不合理にさらに上がりうる
- 保有中なら:ポジションサイズを見直し、部分利確を検討
- どうしても買いたいなら:行使価格150ドル以下のキャッシュ・セキュアード・プット売りはDCF高位ケース近傍
素晴らしい会社が自動的に素晴らしい投資になるわけではない。良い投資にするのは価格だ。
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